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津地方裁判所 平成3年(行ウ)1号 判決

三重県三重郡菰野町大字千草七〇五四番地三五

原告

田中敏光

右訴訟代理人弁護士

杉本雅俊

三重県四日市市西浦二丁目二番八号

被告

四日市税務署長 坂本治己

右被告指定代理人

中山孝雄

太田尚男

中湖正道

谷口實

木岡好己

山中まさ子

井口眞治

木村晃英

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  被告が原告に対して昭和六〇年分所得税について平成元年三月一四日付けでなした再再再更正のうち、総所得金額金一三三一万四八八〇円、納付すべき税額金九九万二五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取消す。

二  被告が原告に対して昭和六一年分所得税について昭和六三年一二月五日付でなした更正のうち、総所得金額金一〇四六万四八八〇円、納付すべき税額金七一万一八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取消す。

三  被告が原告に対して昭和六二年分所得税について昭和六三年一二月五日付でなした更正のうち、総所得金額金一〇四六万四八八〇円、納付すべき税額金六八万一四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取消す。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

本件は、原告が、昭和六〇年ないし昭和六二年中にした株式売買によって得た所得について、各年中の株式売買の回数が五〇回未満であるから、昭和六三年法律第一〇九号による改正前の所得税法九条一項一一号イに該当せず、非課税であると主張し、また、原告に対する税務調査において調査の理由及び理由開示を欠くこと並びに決定等の理由附記に不備があるとしてその手続的違法がある旨主張して、被告の更正処分等の取消を求める事案である。

一  争いのない事実等

1  原告の昭和六〇年分ないし昭和六二年分の所得税についての確定申告(いわゆる白色申告)、これに対する被告の更正・賦課決定、原告の右処分に対する不服申立及び被告の再更正決定等の経緯は、別表一ないし三記載のとおりである(以下、被告のなした、昭和六〇年分所得税についての再再再更正決定並びに同六一年分及び同六二年分所得税についての更正決定を合わせて「本件更正処分等」という)。

2  被告は、本件更正処分等において、原告が自己の計算において昭和六〇年ないし昭和六二年にナショナル証券四日市支店(以下「ナショナル証券」という)及び昭和六二年に野村証券四日市支店(以下「野村証券」という)に委託して行った株式の売買等を行ったことにより生じた所得が雑所得として課税の対象になるとしたものである。

3  被告は、本件更正処分等に先立って、本件各係争年分の総所得金額に関する調査を行った(以下「本件調査」という)。

4  所得税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)九条一項一一号イは、「継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めるもの」を課税所得とし、同法施行令(昭和六三年政令三六二号による改正前のもの)二六条一項は、有価証券の譲渡による所得について、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得のみを課税の対象とする旨規定し、その認定基準として、有価証券の売買を行う者の最近における有価証券の売買の回数、数量又は金額、その売買についての取引の種類及び資金の調達方法、その売買のための施設その他の状況に照らして判断するものとしている。そして、同条二項は、その年中における株式の売買の回数が五〇回以上であり、かつ、その売買した株数又は口数の合計が二〇万以上であるときは、右取引は営利を目的とした継続的行為に該当する旨規定している。

5  被告が本件更正処分等及び本件訴訟において主張する原告の所得は、不動産所得、給与所得、配当所得及び雑所得であるところ、被告の主張する不動産所得金額及び給与所得金額は原告の確定申告と同額であり、配当所得金額についても原告はこれを争わない。

また、原告が昭和六〇年ないし昭和六二年に年間二〇万株以上の株式売買を行ったこと及びその取引内容には当事者間に争いがないし、株式売買にかかる所得額の計算根拠についても争いはなく、本件は、専ら右各係争年中における原告の株式売買の回数が五〇回以上であるか否か、したがって、その所得が課税所得となるか否かが争われているものである。

6  本件各係争年中の原告の株式売買回数について、被告及び原告がそれぞれ主張する回数は次のとおりであり、うち昭和六二年中の野村証券に委託した株式売買の回数は争いがない。

(一) 昭和六〇年分

(1) 被告主張 合計八七回(内訳は、ナショナル証券に委託した売買が八四回、単位未満株式買取請求が三回)

(2) 原告主張 合計四九回(内訳は、ナショナル証券に委託した売買が四七回、単位未満株式買取請求が二回)

(二) 同六一年分

(1) 被告主張 ナショナル証券に委託した売買が七二回

(2) 原告主張 ナショナル証券に委託した売買が四五回

(三) 同六二年分

(1) 被告主張 合計六一回(内訳は、ナショナル証券に委託した売買が五九回、野村証券に委託した売買が二回)

(2) 原告主張 合計四一回(内訳は、ナショナル証券に委託した売買が三九回、野村証券に委託した売買が二回)

二  争点

1  本件更正処分等の手続に処分の取消事由となる違法があるか

(一) 本件調査において、調査の理由及び理由開示を欠く違法があるか

(二) 本件更正処分等の通知書に理由附記を欠くことが違法となるか

2  本件各係争年中の原告の株式売買回数が年間五〇回以上か否か

(一) 昭和六〇年中の株式買取請求の回数

(二) 本件各係争年中に原告がナショナル証券に委託した株式売買の回数

三  争点に対する当事者の主張

1  争点1本件更正処分等の手続の適法性について

(原告)

(一) 本件調査には、調査の理由及び理由開示がなく、違法である。

(二) 本件各更正処分等の通知書には、更正処分の理由が十分に附記されていない違法があり、原告が理由を尋ねたにもかかわらず、理由の追加説明も拒否された。

(三) よって、本件各更正処分等は違法であり、取り消されるべきである。

(被告)

(一) 被告は、本件各係争年分所得税の総所得金額に関する調査を行い、これに基づいて本件各更正処分等を行った。

質問検査については、その細目(範囲、程度、時期、場所等)は実定法上規定されておらず、質問検査の必要性と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り税務職員の合理的な選択に委ねられていると解するのが相当であり、この場合、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知等は法律上一律に要件とされているものではない。

したがって、本件調査は調査の理由を欠くものではないし、調査の理由の告知をしないことが違法となるものでもない。

(二) 理由附記については、所得税法一五四条二項は、所得税の更正一般(白色申告)について、更正通知書に所得別の内訳を付記しなければならないと定めるのみで、更正理由の附記についての定めはない。

したがって、白色申告に係る本件各更正処分等の通知書に更正理由の記載がないことをもって本件各更正処分等が違法であるといえないことは明らかである。

2  争点2(一)昭和六〇年中の株式買取請求の回数について

(被告)

原告は、昭和六〇年中に積水ハウス、電気化学工業及びタテホ化学工業の三銘柄の株式について、単位未満株式の買取請求をしている。

株式買取請求は、投資家が株式の発行会社と相対で行う取引であるから、売買の回数はそれぞれの銘柄につき一回と算定され、合計三回である。

(原告)

原告は積水ハウス株式と電気化学工業株式を売却する際、一回の委託契約とするために、同時にナショナル証券に渡したものである。したがって、昭和六〇年中の株式買取請求の回数は、タテホ化学工業株式の買取請求と合わせて二回である。

3  争点(二)本件各係争年中にナショナル証券に委託した株式売買の回数について

(被告)

(一) 株式売買回数の算定基準

(1) 顧客が証券会社に委託して株式売買取引を行う場合は、株式売買回数は顧客が証券会社に対してなした委託契約の回数によって算定すべきものであり(昭和四五年七月一日直審(所)三〇の所得税基本通達九-一五、乙二九五)、これは畢竟当事者の意思解釈の問題であるが、一般的には、株式の銘柄、値段、数量、売付けと買付けの別、注文の有効期限等を要素とする注文の回数に還元されるものであり、これらを異にすれば(変更も含む)、原則として別個の注文と認められるし、また、株価は時々刻々変動するものであり、注文の日時が異なれば顧客の取引の意思も異なるから、日時の異なる委託契約は別個の契約である。

そして、契約意思が必ずしも明らかでないことを考慮して、売買回数の算定について、委託の際に証券会社が作成し顧客に交付する「注文伝票総括表」に記載された内容に基づく売買は、一つの委託契約に基づく売買と判定することとされている(昭和四六年一月一四日直審(所)二の個別通達、乙二九四)。

(2) 昭和六〇年ないし同六二年中に原告がナショナル証券に委託してなした株式売買について作成された「注文伝票総括表」の枚数は、昭和六〇年分が四七枚、同六一年分が四五枚、同六二年分が三九枚である。

しかしながら、本件における「注文伝票総括表」には受注後直ちに作成されなかったものがあること、担当者自身が記載していないものもあること、ナショナル証券の原告担当者らは「注文伝票総括表」に対する知識が乏しかったことが認められ、「注文伝票総括表」は後から注文を受けた銘柄のうち成約分だけをまとめて作成した部分がある可能性が高い。一方、「注文伝票」(「委託・信用買付注文伝票」「委託・現物買付注文伝票」「委託・信用売付注文伝票」「委託・信用買付注文伝票」のことをいう。以下同じ)はその性格や作成目的、記載内容、作成方法に鑑みれば、顧客からの注文回数を正確に反映していると考えられる。

(3) したがって、本件において、株式売買の回数(委託契約の回数)を検討するには、「注文伝票総括表」のみによって売買回数を算定することは相当ではない。「注文伝票」の記載内容その他の備付け帳簿等を総合的に検討して売買回数を慎重に判断しなければならない。

(4) 右の視点に立ち、「注文伝票総括表」、「注文伝票」及び備付け帳簿等を調査すると、「注文伝票総括表」の記載中には、左記イないしヌのような矛盾点や不合理な点が認められる。このような場合は以下記載のとおり、当該銘柄について、「注文伝票総括表」に記載された他の銘柄とは別個の委託契約があったと認めるのが相当である。但し、左記A又はBの各事実が存在する銘柄については、イないしヌの事実にかかわらず、株式売買回数を一回と算定するのが相当である。

これらの指針に基づいて被告が主張する委託契約の回数の算定は別表四ないし六の「売買回数」「被告主張」欄記載のとおりであり、これを合計すると、原告の本件各係争年中の株式売買回数はいずれも五〇回以上となることが明らかである。

なお、以下のイないしヌ、又はA又はBの各事実に該当する銘柄は、別表四ないし六の「売買回数」「理由」欄にイないしヌ、又はA又はBと付記したものである。またヘないしチの事実を判断した銘柄別の株価変動状況は、別表七ないし九のとおりである。

イ ある銘柄の「注文伝票」に記載された現実の受注年月日時分が、「注文伝票総括表」に記載された注文日よりも前の日付となっているものがあり、この場合は、当該銘柄については「注文伝票総括表」の記載は不正確であり、その銘柄については、同一の「注文伝票総括表」に記載された他の銘柄の注文とは別個の委託契約があったものと認めるのが相当である。例えば、別表四(1)番号2の安川電機株の取引がそれである(乙二の一、三)。

ロ ある銘柄の「注文伝票」の現実に取引(約定成立)のなされた日付が「注文伝票総括表」に記載された注文の有効期間経過後のものがあり、この場合の当該銘柄の取引は、当初の委託契約にかかる有効期間経過後に新たな委託契約がなされてこれを履行したものと認めるのが相当である。例えば、別表四(1)番号1のローム株の取引がそれである(乙一の一、三)。

ハ ある銘柄の「注文伝票」の現実の注文株数が、「注文伝票総括表」に記載された注文株数よりも多いものがあるところ、この場合、現実に取引(約定成立)がなされた株数が結果的には「注文伝票総括表」に記載された株数と同一の数量で終了しているものがほとんどであるとはいえ、それがどのような経緯によるものであったとしても、注文内容の移動という別個の意思表示がなされているものであるから、当該銘柄については、同一の「注文伝票総括表」に記載された他の銘柄の注文とは別個の委託契約があったものと認めることができる。例えば、別表四(2)番号18の三井鉱山株の取引がそれである(乙一八の一、二)。

ニ ある銘柄の「注文伝票」の現実の注文株数が、「注文伝票総括表」に記載された注文株数と相違していたり、「注文伝票」の単価(指値)の変更がなされて売買が成立している銘柄がある。この場合の単価、数量を変更して再発注して約定された取引は、重要な契約の要素の変更がなされたものであるから、当該銘柄については、当初の委託契約が変更され、他の銘柄とは別個の新たな委託契約がなされたものと認めるのが相当である。例えば、別表四(1)番号8の日本新薬株の取引は、単価変更の例である(乙八の一、三)。

ホ ある銘柄の「注文伝票」の「指値又は成行」欄が指値の記載になっていて、現実にその注文の当日に取引の約定(成立)がなされているのに、「注文伝票総括表」に記載された注文の日付がそれより以前のものがある。これは、「注文伝票総括表」の注文日には発注されず、注文日後に市場に発注されていることを意味する。例えば、別表四(1)番号3のクラレ株の取引がそれである(乙三の一、四)。

証券会社担当者は、顧客から委託注文を受けた日時を注文伝票に記載しておくことが義務づけられ(昭和四六年七月一日大蔵省証券局長通達一七四〇号、乙三〇七)、また、各証券取引所の業務規定が定める『価値優先の原則』『時間優先の原則』の趣旨から、委託を受けた場合は遅滞なく発注することになっているところ、特に、成行注文の場合は、どんな値段の指値注文より優先する(東京証券取引所及び大阪証券取引所の各業務規定一〇条二項三号、乙三〇七)のであって、注文を受けると遅滞なく発注し取引が成立することとなるのが通常である。

すなわち、単価の制約を受けない成行注文は、すぐに取引が実行されるのであるから、「注文伝票総括表」に記載の日付に注文があれば、その日のうちに発注がなされるはずである。しかるに、成行注文であるのに「注文伝票総括表」記載の日付よりも後に取引の約定が成立している場合がある。これは、当該銘柄について、「注文伝票総括表」の記載に誤りがあるとみて右表に記載された他銘柄とは別個の委託契約があったと認めるのが相当である。

ヘ ある銘柄の「注文伝票」の「指値又は成行」欄が指値による売り注文になっていて、現実にはその注文当日に売りの取引の約定が成立しているところ、「注文伝票総括表」の注文の日付から現実に右売りの取引の約定が成立している日までの間の相場は指値と同値か指値よりも高値を示しており、「注文伝票総括表」の記載に基づく売り注文の取引は、「注文伝票」に記載している現実の売りの取引の約定が成立している日よりも以前に成立させることが可能であったはずである。そうすると、これは「注文伝票総括表」の記載が誤りであることになるので、「注文伝票」記載の受注(発注)年月日時分の頃に注文があったと考え、右同一の「注文伝票総括表」記載の他の銘柄とは別個の委託契約があったと認めるのが相当である。例えば、別表四(1)番号11の山之内製薬株の取引がそれである(乙一一の一・三、乙一五〇ないし一五二)。

ト ある銘柄の「注文伝票」の「指値又は成行」欄が指値による買い注文になっていて、現実にはその注文当日に買いの取引の約定が成立しているところ、「注文伝票総括表」の注文の日付から現実に右買いの取引の約定が成立している日までの間の相場は指値と同値か指値よりも安値を示しており、「注文伝票総括表」の記載に基づく買い注文の取引は、「注文伝票」に記載している現実の買いの取引の約定が成立している日よりも以前に成立させることが可能であったはずである。そうすると、これは「注文伝票総括表」の記載が誤りであることになるので、「注文伝票」記載の受注(発注)年月日時分の頃に注文があったと考え、右同一の「注文伝票総括表」記載の他の銘柄とは別個の委託契約があったと認めるのが相当である。例えば、別表四(1)番号3の山之内製薬株の二万株のうちの五〇〇〇株の取引がそれである(乙乙三の一・三、乙一三五ないし一三九)。

チ ある銘柄の「注文伝票」記載の受注年月日時分の原告の指値と「注文伝票総括表」記載の注文の日付の市場の相場とを比較すると金額に相当の開きがあるなど、相場の値動きの状況から判断して、「注文伝票総括表」に記載された日に委託契約があったとは認められないものがある。この場合、当該銘柄については、右同一の「注文伝票総括表」記載された他の銘柄とは別個の委託契約があったものと認めるのが相当である。例えば、別表四(1)番号25の不二家株の売りの取引をみると、「注文伝票総括表」記載の注文日は昭和六〇年六月二二日であり、その当時の不二家の市場相場は一三八〇円から一四〇〇円であるのに、「注文伝票」記載の指値は一六〇〇円又は一六二〇円であり、二〇〇円もの開きがある(乙二五の一・五ないし七、乙一八三ないし一八九)。

リ 「注文伝票総括表」においては同一の機会に注文があったとされている銘柄が、それぞれの「注文伝票」記載の受注年月日時分からするとその日や時間に相当の開きがあり、他の銘柄の売買が成立したことを原告に連絡することが可能な時間の経過後に、新たに発注されている銘柄がある。例えば、別表四(3)番号35の敷島紡績株と安川電機株との取引がそれである(乙三五の一ないし三)。

当該銘柄については、別途委託契約があったと認めるのが相当である。なお、注文伝票に記載されている受注年月日時分は、証券会社が顧客から受注を受けてから一、二分の間には打ち込まれるのが通常であり、それは、証券取引所に発注した時間でもある。

ヌ ある銘柄の「注文伝票」の注文条件欄が「本日限り」となっているのに、同伝票の受注(発注)年月日の日付と「注文伝票総括表」の日付と相違しているものがある。当該銘柄については、右同一の「注文伝票総括表」記載の他の銘柄と別個の委託契約があったものと認めるのが相当である。例えば、別表四(1)番号3のクラレ株の取引がそれである(乙三の一、四)。

A 内(ウチ)出来表示(同一銘柄の取引の約定の成立が複数日にわたる場合で、注文株数のうち、後の約定成立株数が前の約定不成立分の残株数の範囲内であることを注文伝票に表示することをいう。以下同じ)がされていることから、一つの委託契約であると認められるもの。例えば、別表四(1)番号25の不二家の昭和六〇年六月二八日と翌二九日にわたる取引がそれである(乙二五の五、六)。

B 「注文伝票」に記載された受注(発注)年月日時分が同一であることから一つの委託契約と認められるもの。例えば、別表四(1)番号9の山之内製薬株とタテホ化学株の取引がそれである(乙九の三、四)。

(二) 原告の主張に対する反論

(1) 原告は、イないしハの矛盾点について、「注文伝票総括表」の誤記とみるのが自然である旨主張するが、むしろ「注文伝票総括表」が発注年月日時分の日付及び発注数量で意図的に記載されているからこそ、このような矛盾点が発生したとみる方がはるかに自然である。

(2) ニないしリの矛盾点について、原告は、担当者の判断に任せて取引を行っていたためであり、委託契約は一回である旨主張するが、原告と担当者の間ではほぼ毎日電話連絡があり、注文した銘柄の約定の成否も報告されているのだから、右報告の際に条件の変更を行うのはごく自然と考えられるし、原告がその時の相場の状況等により当初の注文と異なる指示をする等、「注文伝票総括表」記載の委託契約と別の委託を行っていたからこそ、ニないしリのような矛盾点が発生したと推認する方がはるかに自然である。また、原告が主張するような、売買の内容を担当者に任せる取引は、受託契約準則違反であって証券取引のルールに明らかに抵触するものであり、右主張にそう証人ら(ナショナル証券原告担当者)の証言及び原告本人の供述は信用することができない。

(三) 以上を総合すると、原告の本件各係争年中の株式売買回数は、以下のとおり各年とも五〇回以上となって、所得税法施行令二六条二項の規定に該当し、右株式売買による所得は課税所得となる。

(1) 昭和六〇年分 合計 八七回

ナショナル証券に委託した株式売買回数 八四回

株式買取請求回数 三回

(2) 昭和六一年分 合計 七二回

ナショナル証券における株式売買回数 七二回

(3) 昭和六二年分 合計 六一回

ナショナル証券における株式売買回数 五九回

野村証券における株式売買回数 二回

(四) 総所得金額について(原告は金額の計算根拠を争わない。)

以上、原告がなした株式売買に係る所得は課税所得(雑所得)となる。

原告の本件各係争年分の総所得金額を算定すると以下のとおりであり、本件各係争年分の再再再更正処分及び更正処分に係る総所得金額は、右総所得金額の範囲内にあるから、右各処分はいずれも適法である。

(1) 昭和六〇年分の総所得金額 合計三四六一万二五四〇円

〈1〉 不動産所得の金額 六五万九八八〇円

〈2〉 配当所得の金額 三一五万四〇〇〇円

〈3〉 給与所得の金額 九八〇万五〇〇〇円

〈4〉 雑所得の金額 二〇九九万三六六〇円

(2) 昭和六一年分の総所得金額 合計二〇二一万二九一八円

〈1〉 不動産所得の金額 六五万九八八〇円

〈2〉 配当所得の金額 七万七〇〇〇円

〈3〉 給与所得の金額 九八〇万五〇〇〇円

〈4〉 雑所得の金額 九六七万一〇三八円

(3) 昭和六二年分の総所得金額 合計二六三〇万九八二九円

〈1〉 不動産所得の金額 六五万九八八〇円

〈2〉 配当所得の金額 二八万五〇〇〇円

〈3〉 給与所得の金額 九八〇万五〇〇〇円

〈4〉 雑所得の金額 一五五五万九九四九円

(五) 過少申告加算税賦課決定の適法性

被告がなした、原告の昭和六〇年分の所得税に関する再再再更正処分並びに同六一年分及び同六二年分所得税に関する更正処分は適法であり、かつ、原告が過少申告をしたことについて、昭和六二年法律第九六号による改正前の国税通則法六五条四項及び右改正後の同項に規定する正当な理由があるとは認められないから、被告がなした各年分の過少申告加算税の各賦課決定処分も適法である。

(原告)

(一) 原告は、一年間の委託契約回数を五〇回未満に制するという基本方針を明確に持っていたものであり、そのためにナショナル証券における株式売買において「注文伝票総括表」を利用し、同じ理由で、注文を出すときも、どの株式を、幾株くらい、幾らくらいで、買いあるいは売りと希望を伝えていたが、実行するについては担当者にある程度の幅を与えて、担当者の判断で行うことを認め、任せていた。

したがって、本件における委託契約の回数は、「注文伝票総括表」の枚数と一致し、各年分とも五〇回未満である。

(二) 株式売買回数の算定基準

(1) 売買回数算定の基礎となる委託契約の個数は、委託者と受託者の具体的な契約意思如何によって決まるものであり、個々の委託契約の趣旨によって具体的に認定すべきものである。認定に際しては、以下の認定基準によって、判断すべきである。

〈1〉 一回の委託契約に基づく取引が数回に分けて執行されても、当初の委託契約の趣旨に含まれていたと見られる限りは委託契約は一個である。

〈2〉 「電力株」等の指定のみで個々の銘柄を指定していない場合や一定の金額の範囲内での買付けを委託する場合等、当初の委託の趣旨に幅がある場合、その趣旨の範囲内であれば、重要な要素の変更があったものではなく一回の委託契約によるものである。

〈3〉 単に個々の取引毎に指値が異なったり注文日時が若干異なるからといって、直ちに別個の注文となるものではない。

〈4〉 当初の注文に対して、市場において当日成約された株数が注文株数に達しなければ、注文期限を定める等特段の事由のない以上は、約定した株数が成約するまで当初の委託契約が続行しているとみるのが通常の当事者の意思であり、注文株数の範囲内である限り、日時を隔てていても、原則として当初の委託契約の執行と解すべきである。

(2) 本件の「注文伝票総括表」は、ナショナル証券の営業担当者の理解不足等により後日約定票からまとめて記載され、本来注文を受けた日を記載すべきなのに約定日を記載しているなど、正確さを欠くものであることには留意を要する。しかし、これらは後述のとおり単なる誤記であって、これを形式的に別個の取引として算定することは、委託契約の回数判断を誤るものである。

(3) 被告の個々の矛盾点の主張に対する反論と、ナショナル証券に委託した株式売買回数の算定に関する主張

イ 「注文伝票総括表」に記載された日付前の日に発注された銘柄

「注文伝票総括表」には注文日を記載すべきところ、営業担当者等が約定票からまとめて記載した事情により、約定日をもって日付記載したために日付違いが発生したものである。従って形式的な誤記でしかなく、別個の委託契約として計算すべきものではない。

ロ 「注文伝票総括表」に記載された有効期間経過後に発注された銘柄

原告と担当者の間の契約では、原則として有効期間の観念はなかった。注文後ある程度期間を見る必要がある取引もあり、注文後条件が合致した時に現実の注文がなされていたものである。従って有効期間経過後であっても、注文としては当初のものである。

ハ 「注文伝票総括表」記載の注文株数より多い株数が発注されている銘柄」

これは、「注文伝票総括表」は、売買の成否にかかわらず、注文を受けたすべての注文内容を記載すべきものであるところ、担当者の知識不足ゆえに注文を受けた銘柄のうち成約した分だけをまとめて作成したためにおこった単純なミスである。

ニ 単価又は数量を変更して市場に再発注し、約定されている銘柄

これらの銘柄の多くは人気化している株あるいは信用銘柄で、かついわゆる仕手株といわれるものであり、一、二分の間に株価が乱高化するものであり、刻々と株価が変化する銘柄である。

したがって、担当者の瞬間的な判断にある程度委ねる必要があり、相場の変化の度に客に判断を聞いていては売り買いのタイミングを失することとなる。そこで、原告と担当者との信頼関係に基づき、注文にある程度売買の時期・数・値段等の幅をもたせており、担当者の判断により適宜執行されたものである。

ホ 成行注文であるのに、注文日以後に市場に発注されている銘柄

これらの銘柄も、人気化している株あるいは仕手株であり、素人には売買のタイミングの判断が非常に難しく、原告が担当者に対し計い注文(値段の上限と下限を定めたり、希望値段の上下に幅をもたせる注文)を行っていたものであり、原告が指示変更したものではない。

ヘ 指値による売り注文で、注文日から売買成立の前日までの相場が指値と同値か指値より高値であることなどから売買成立が可能であるのに、注文日の後に発注され、当該指値で売買されている銘柄

ホと同様である。

ト 指値による買い注文で、注文日から売買成立の前日までの相場が指値と同値か指値より安値であることなどから売買成立が可能であるのに、注文日の後に発注され当該指値で売買されている銘柄

ホと同様である。

チ 「注文伝票総括表」の注文日以降の相場の変動状況と「注文伝票」から認められる市場への発注日時(「注文伝票」記載の受注年月日時分)及び指値とを比較して、市場の相場の変動をみて他の銘柄とは別個に注文がなされたと認められる銘柄

ニと同様である。

リ 「注文伝票」からすると、他の銘柄の売買が成立したことを原告に連絡することが可能な時間の経過後に、新たに発注されている銘柄

これも、いちいち原告の指示を受けたものではなく、担当者に委ねられた判断の範囲内のものである。

(4) 被告は、本件訴訟審理途中で「注文伝票総括表」の矛盾点の主張を追加したが、課税処分決定時の認定理由と異なる主張をすることを認めることはできない。また、当初一回と算定していた取引を二回と算定して主張するのは、被告の主張の曖昧さを示すものである。

(三) 以上、「注文伝票総括表」に矛盾点の見られる銘柄について別個の委託契約があったものとする被告の主張はいずれも失当である。被告が別個の委託契約だと主張する取引はいずれも当該「注文伝票総括表」に記載された他の取引と共に一個の委託契約によってなされたものである。

(四) したがって、原告がナショナル証券に委託した株式売買の回数(株式買取請求を除くもの)は、昭和六〇年中が四七回、同六一年中は四五回、六二年中は三九回である。これに昭和六〇年の株式買取請求、昭和六二年の野村証券での株式売買を加えても、左記のとおり、原告の昭和六〇年ないし同六二年中の株式売買の回数はいずれも五〇回未満である。

(1) 昭和六〇年分 合計 四九回

ナショナル証券に委託した株式売買回数 四七回

株式買取請求回数 二回

(2) 昭和六一年分 合計 四五回

ナショナル証券に委託した株式売買回数 四五回

(3) 昭和六二年分 合計 四一回

ナショナル証券に委託した株式売買回数 三九回

野村証券に委託した株式売買回数 二回

(五) よっていずれも課税対象とならないものであるから、これに係る所得を課税所得とした被告の本件更正処分等及び過少申告加算税賦課決定は違法であり、取り消されるべきである。

第三当裁判所の判断

一  争点1本件更正処分等の手続の適法性について

1  原告は、本件更正処分等に先立ってなされた被告の調査(所得税法二三四条一項に定める質問検査権の行使)が理由及び理由の開示を欠くから、右処分が違法である旨主張する。

しかしながら、原告においても本件調査が理由を欠くことについて何ら具体的な事実の指摘をしないものであるところ、そもそも調査権限を有する税務職員の税務調査は、申告の真実性や正確性を確認したり、過少申告の疑いがある場合に行われることは明らかであって、質問検査の範囲、程度、時期、場所等については、質問検査の必要性と相手方の私的利益とを比較衡量して社会通念上相当な限度にとどまる限り、調査権限を有する税務職員の合理的な選択に任されていると解される。本件において調査の必要性がなかったものと認めるべき事情も窺われないから、本件調査が理由がない旨の原告の主張は理由がない。また、所得税法二三四条は、質問検査権の行使にあたり、別段、調査理由の開示を要件としていないものであり、調査理由の開示を欠くからといって本件調査が違法であるということはできず、この点に関する原告の主張も理由がない。

2  さらに、原告は、更正通知書に更正理由が十分に附記されておらず、原告が理由を尋ねても説明されなかったことが違法である旨主張する。

しかしながら、所得税法は、同法一五四条二項において、所得税につき更正又は決定する場合における国税通則法二八条一項に規定する更正通知書又は決定通知書には、同法二項に規定する事項すなわち更正前後の課税標準等及び税額等を記載しなければならないとしてその法定記載事項を定め、この法定記載事項の中に更正処分の理由の附記を入れていないが、同法一五二条二項において、青色申告書にかかる更正処分については理由の附記を要求している。したがって、いわゆる白色申告と青色申告とは別異の取扱をしていることとなる(同法一五五条二項。)そうとすれば、原告の本件各確定申告(いわゆる白色申告)にかかる本件更正処分等が更正理由の附記の不備等により違法である旨の原告の主張も理由がない。

二  争点2(一)昭和六〇年中の株式買取請求の回数について

1  昭和六三年政令三六二号による改正前の所得税法施行令二六条二項一号にいう「売買の回数」とは、所得税基本通達九-一五(乙二九五)によれば、顧客が証券会社に委託してなした株式等の売買については、証券会社が当該委託に基づき行った取引にかかる銘柄数又は取引回数の如何にもかかわらず、証券会社との間の委託契約毎に一回と算定され、当該委託契約の内容につき重要な要素の変更が行われたときは、当該変更の時において別個の委託契約が締結されたものとされている。そして、証券会社との間の一の委託契約に基づいて行われたことが明らかである場合の売買とは、例えば、委託の際に証券会社から交付を受けた「注文伝票総括表」に記載されている内容に従って行われた売買をいうとされる。この通達の趣旨を受けて、各証券会社においても、「注文伝票総括表」を作成して顧客に交付することとなった。したがって、売買回数の算定については、この「注文伝票総括表」に記載された内容に従って行われている売買は、一つの委託契約に基づく取引と判定されることとなる(昭和四六年一月一四日直審(所)2個別通達、乙二九四)。この考え方自体については、原告もその主張自体から明らかなように特に争わないし、当裁判所もその合理性を認めるものである。

しかし、単位未満株式の当該会社に対する買取請求についてはこれと異なり、株主と株式の発行会社との間の相対取引として行われるものであり、それぞれの銘柄につき株主と当該会社との間でなされた別個の取引と認められるものであるから、個々の銘柄の買取請求毎に売買回数が算定されるべきものである。取次ぎを行う証券会社に対し、株主が同時に複数銘柄の買取請求を依頼したからといって、また、株主がこれを一回の取引とする意思だったからといって、その売買の回数が左右されるものではない。

2  これを本件について見るに、乙三一一の一ないし四によれば、原告は昭和六〇年中に電気化学工業、積水ハウス及びタテホ化学工業の三銘柄について、それぞれ発行会社に対し単位未満株式の買取請求を行っている。したがって、昭和六〇年中の株式買取請求の売買回数は合計三回と算定するのが相当である。

3  そうすると、昭和六〇年中に原告が行った株式売買の回数は、ナショナル証券に委託した株式売買の回数が、原告主張のとおり、「注文伝票総括表」の合計枚数と一致する四七回だとしても、すでに年間五〇回となり、同年中に原告が株式売買等によって得た所得は課税所得となるものと認められる。

4  よって、これを課税対象とした昭和六〇年分所得税に関する本件再再再更正処分はその余の点の判断に進むまでもなく適法であり、昭和六〇年分所得税の右再再再更正処分及び過少申告加算税賦課決定の取消を求める原告の請求は理由がない。

三  争点2(二)昭和六一年分、昭和六二年分のナショナル証券に委託した株式売買の回数について

1  売買の回数の算定基準

(一) 右二1で説示したとおり、売買回数の算定についてはこの「注文伝票総括表」に記載された内容に従って行われている売買は一つの委託契約に基づく取引と判定する考え方については、当裁判所もその合理性を認めるものである。そして、ナショナル証券が作成した本件各「注文伝票総括表」に、被告が第二、三3(4)において指摘するようなイないしヌの事実が認められるならば、被告主張のように別個の委託契約と認めるべきものであり、またA又はBの事実が認められるならば一個の委託契約と認めるべきであるから、委託契約の回数の算定に争いのある取引について、以下その成否について判断する。

2  昭和六一年中及び昭和六二年中の原告の株式売買について作成された「注文伝票総括表」及び「注文伝票」の記載内容、約定のできた株式取引内容並びにこれを認める証拠の書証番号は、別表五及び六記載のとおりであり、別表の左端の番号は各「注文伝票総括表」毎に付されたものである(したがって、原告の主張する売買の回数に一致する)。また、株価変動状況及びこれを認める証拠の書証番号は、別表八及び九記載のとおりである。

(一) 昭和六一年分(別表五)

(1) 番号3の「注文伝票総括表」に記載された取引(以下、単に番号で、表示する)について

〈1〉 「日本ケミファ」株は、一月一六日一〇時二八分に九三〇円で二万株、同日一三時三〇分に九二二円で二万株が発注され、それぞれ取引が成立している。

右の「注文伝票」に記載された二回の注文は、値段を異にし、同日とはいえ時間を異にする(前場と後場)注文であり、原告の意思を確認した上新たな注文がなされたと推認され、別個に算定するのが相当である。

〈2〉 「三洋化成」株は、右「日本ケミファ」株の発注の日(「注文伝票総括表」記載の日)から七日後に発注されたものであり、その間の株価変動状況からみても、「日本ケミファ」株の発注日に原告が指値注文をしたものと解するのは不自然であって、別個の注文によるものと算定するのが相当である。

〈3〉 よって売買の回数は三回と算定する。

(2) 番号6について

〈1〉 「日本ケミファ」株は、二月三日八時四七分に九九九円で二万株、同日一四時四一分に一一〇〇円で二万株が発注され、それぞれ取引が成立している。前記(1)〈1〉同様に、別個に算定すべきものと解される。

〈2〉 「持田製薬」株は、最初の発注は、二月三日八時四七分に八二〇〇円で三〇〇〇株であり同時刻に発注された「日本ケミファ」株と同じ委託契約に基づくものと認められるが、同日一四時一五分に指値を八〇〇〇円に変更して約定されており、変更は、指値を異にし、同日とはいえ時間(前場と後場)を異にする注文であり、新たな注文がなされたものと認め、変更後の注文による取引は、前記(1)〈1〉と同様に「日本ケミファ」株の取引とは別個に算定すべきものと解される。

〈3〉 よって売買の回数は三回と算定する。

(3) 番号9について

〈1〉 「日東紡績」株は、これだけが他銘柄と異なる二月二四日に発注されており、これが他銘柄と同じ日に原告から注文を受けたものであると認めるに足りる証拠はない。よって別の委託契約に基づくものと推認され、別個に算定するのが相当である。

〈2〉 「イハラケミカル」株は、二月二五日一〇時二八分に指値を変更して取引の成立に至っており、二月二二日に発注された他の銘柄とは別個の新たな委託契約に基づくものと算定するのが相当である。

〈3〉 よって売買の回数は三回と算定する。

(4) 番号11について

〈1〉 「ジャノメ」株は、他銘柄と異なり、三月四日に成行で発注されているから別個の委託契約に基づくものと推認され、これが他の銘柄と同じ日に原告から注文を受けたものであると認めるに足りる証拠はない。

〈2〉 「三洋化成」株は、三月一日九時五八分と同日一三時四三分に各八六〇円で一万株が発注され、合計一万一〇〇〇株が取引の成立に至っている。同日であるが異なる時間(前場と後場)の発注であり、別個の委託契約に基づくものと算定するのが相当である。

〈3〉 「日東紡績」株は、三月三日九時五一分に五〇五円で合計五万株、同日一二時四七分に五九六円で二万株が発注され、それぞれ取引が成立している。

右は時間を異にし、指値にも大きな差があり、前記(1)〈1〉と同様、別個の売買と算定するのが相当である。また、これらは、番号11の「注文伝票総括表」に記載された他の銘柄とは異なる日の売買であるから、他銘柄とは別の二個の委託契約と算定するのが相当である。

〈4〉 以上、売買の回数は五回と算定する。

(5) 番号12について

〈1〉 「黒崎窯業」株は、三月五日一〇時四五分に発注されている。ところが「新潟鉄工所」株は成行注文であるのに遅れて同日一三時二三分に発注されており、相場の変動状況を見ながら改めて注文したものと推認される。したがって「黒崎窯業」株の売買とは別個に算定するのが相当である。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(6) 番号14について

〈1〉 「三洋化成」株は、三月一四日に八八九円で二万株が発注され、取引が成立している。これが同月一三日に発注された「敷島紡績」株と同時に右指値で委託をしたものであれば、当時の相場状況からみて同日に発注できたはずであり、一四日に発注されたのは同日に注文がされたためと推認される。したがって、「敷島紡績」株の売買とは別個に算定するのが相当である。

〈2〉 「東京建物」株は、三月一五日に発注されており、相場状況からみても同日の相場の変動に基づいて委託契約がなされたものと推認される。したがって、これも別個に算定するのが相当である。

〈3〉 よって売買の回数は三回と算定する。

(7) 番号17について

〈1〉 「小野薬品」株は、四月一一日に六〇一〇円で二〇〇〇株が発注されて成約に至っており、日付を異にする点からも、当時の相場状況からも、同月八日に発注された「三井不動産」株とは別個の委託契約に基づくものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(8) 番号21について

〈1〉 「注文伝票総括表」記載の日は四月二八日であり、右総括表に記載された「日東紡績」株は同日に発注されているところ、「東京建物」株はそれ以前の同月二五日に発注され、同日取引が成立しており、別個の委託契約に基づくものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(9) 番号23について

〈1〉 「ジャノメ」株は、五月一五日に成行で一万五〇〇〇株を発注して一万株が成約し、一六日に一九二〇円の指値で五〇〇〇株を発注して成約し、また、一九日に成行で一万株を発注して二〇〇〇株が成約し、二〇日に成行で一万八〇〇〇株を発注して一万三〇〇〇株が成約している。これらは日を異にし、注文の値段(指値か成行か)、数量に変動がみられ、別個の取引意思に基づく委託契約によるものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は四回と算定する。

(10) 番号24について

〈1〉 「日東紡績」株は五月二三日に発注されているのに対し、「小野薬品」株及び「東邦薬品」株は同月二四日に発注されている。これらは日を異にするものであり、また、特に「小野薬品」株は相場状況からしても、「日東紡績」株と同じ五月二三日の委託契約によるものとは解されないところであって、別個の委託契約に基づくものと推認される。但し、「小野薬品」株及び「東邦薬品」株は同じ時刻に発注されており、一個の委託契約によるものと算定される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(11) 番号25について

〈1〉 「川崎製鉄」株のうち四万株については、五月三一日に発注された他の銘柄等と異なり、六月四日に発注されている。これは発注日からみても、指値と当時の相場状況を比べてみても、五月三一日の委託契約に基づくものとは解されず、別個に算定するのが相当である。

〈2〉 よって売買の回数は二回を算定する。

(12) 番号26について

〈1〉 「日東紡績」株は、六月二八日(土曜日)一〇時一九分に六一二円で二万株を「本日限り」で発注したところ、同日一一時五一分に一万二〇〇〇株が成約し、六月三〇日(月曜日)九時五六分に同じく六一二円で八〇〇〇株を発注してこれを成約し、合計二万株の取引が成立している。右は「本日限り」との条件で発注され、かつ、「注文伝票」に内出来表示がされていないから、六月二八日の注文は同日で終了し、三〇日に改めて注文がなされたものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。よって、別個の委託契約と算定するのが相当である。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(13) 番号32について

〈1〉 「日産自動車」株について、八月二八日に七三五円の指値で発注された後、同月二九日に成行に注文が変更されて取引が成立しており、右変更後の注文による取引は、同月二八日に発注され取引が成立した「ジャノメ」株とは別個の委託契約によるものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(14) 番号34について

〈1〉 「南海電鉄」株は九月四日に発注の後、同月六日に指値が変更されて取引が成立しているところ、「ジャノメ」株は同月一〇日に発注されており、相場の変動状況からみても同月四日に発注されていたものとは認められない。よって、「南海電鉄」株とは別個の委託契約によるものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(15) 番号40について

〈1〉 「イハラケミカル」株について、一〇月三〇日に指値一六八〇円で五〇〇〇株の売り注文が発注され成約した後、同月三一日にも指値一六八〇円で五〇〇〇株の売り注文が発注されたが、これは同日指値が一六一〇円に変更され、成約に至った。右一〇月三〇日の注文と、指値変更後の三一日の注文は、異なる日に異なる指値の発注、成約がなされたものであり、別個の委託契約によるものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(16) 番号41について

〈1〉 「南海電鉄」株について、一一月二五日に指値一〇六〇円で五〇〇〇株の買い注文が発注されて成約し、また、同月二七日に指値一一一〇円で五〇〇〇株が発注されて成約したものである。これは、異なる日に異なる指値で注文がなされたものであり、別個の取引意思に基づく委託契約として、別個に算定するのが相当である。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(17) 番号43について

〈1〉 「帝国石油」株は「注文伝票総括表」記載の日(一二月一八日)及び同一総括表に記載された「持田製薬」株の発注された日(同月一七日)以前の同月一五日に発注され、同日成約しており、「持田製薬」株とは別個の委託契約によるものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(18) 番号45について

〈1〉 「日本合成ゴム」株は一二月二六日に発注されたものであり、「いすず」株は同月二二日に発注された後同月二七日に数量が変更されて取引が成立したものであるから、右「日本合成ゴム」株と「いすず」株の売買は別個の委託契約に基づくものとして算定するのが相当である。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

以上に算定したところを合計すると、原告の昭和六一年中の株式売買等の回数は、七二回となり、年間五〇回を超える。

よって課税対象となるものである。

(二) 昭和六二年分(別表六)

(1) 番号2について

〈1〉 「日東紡績」株は一月七日に発注され、「富士電機」株は異なる日である同月八日に成行で発注されている。よって、別個の委託契約によるものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(2) 番号4について

〈1〉 「日立マクセル」株は二月三日に発注されており、一月三〇日に発注された「百五銀行」株とは異なる日に発注されたものであるから、別個の委託契約によるものと推認される。

〈2〉 「百五銀行」株は、一月三〇日一〇時三九分に六九〇円で一万株の買い注文が発注され、同日一三時〇二分までに一万株の取引が成立した後、新たに同日一四時一七分に六八六円で一万株の買い注文が発注され、同日一四時四六分に六九一円に変更して取引が成立している。そうすると、指値六九〇円でなされた注文と変更後の指値六九一円の注文は、同一ではあるが前場と後場の異なる時間に別個になされたものであり、別個の委託契約によるものと認めるのが相当である。

〈3〉 よって売買の回数は三回と算定する。

(3) 番号5について

〈1〉 「日本合成ゴム」株は、二月七日(番号5の「注文伝票総括表」記載の日)発注された分と同月一六日に発注された分がある。

一六日発注分は、指値が七日発注分と同じであること及び株数が七日に成約しなかった株数と同じであることからすると、七日発注分と同じ委託契約に基づくものと考えられなくもない。しかし、七日発注分が同月一二日に一〇〇〇株成約された時からみても、明らかに時日が開いていること、一六日発注分は「コナミ」株と同じ一六日八時五三分に発注されており、この時に原告の取引意思の確認がされたものと推認されることに鑑みると、七日分とは別個に確認された取引意思に基づく委託契約によるものと認めるのが相当である。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(4) 番号6について

〈1〉 「京都銀行」株は、二月一七日に、「アルプス」株は同月一八日に発注されており、それぞれ別個の委託契約によるものと推認される。

〈2〉 「コナミ」株は「注文伝票総括表」の注文日よりも前の日付である二月一六日に発注されている。

〈3〉 よって売買の回数は三回と算定する。

(5) 番号7について

〈1〉 「東芝」株について同一日であるが、異なる時刻(前場と後場)に異なる指値で新たに発注されており、発注日である二月二六日の相場状況に照らすと、株価変動状況をみて、原告が新たに注文をしたものと推認され、別個の委託契約によるものと算定するのが相当である。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(6) 番号11について

〈1〉 「日本合成ゴム」株は、「持田製薬」株が発注された三月一〇日とは異なる同月一三日に発注されている。かつ、「日本合成ゴム」株の株価変動状況をみると、同月一〇日から一三日にかけて概ね上昇傾向にあり、一〇日と一三日では株価に相当な差があることからして、右銘柄を一〇日に発注したものではなく、原告が右のような値動きをみて一三日に発注したものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(7) 番号12について

〈1〉 「松下通信」株と「ジャスコ」株は、共に三月一三日一七時四三分に発注されたが、内「松下通信」株は同月一六日に指値が二八一〇円から二七三〇円に変更されて成約に至っており、右変更は新たな取引意思が示されたものと推認されるから、別個の委託契約によるものと算定するのが相当である。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(8) 番号20について

〈1〉 「松下通信」株と「アルプス」株は五月二九日に同時に発注されており、一個の委託契約と認められるが、「C&W」株と「いすず」株は六月二日に発注されており、さらに「C&W」株は六月三日に九七〇円の指値が成行に変更されて取引が成立しているから、「C&W」株と「いすず」株は、それぞれ五月二九日に発注された銘柄(「松下通信」株と「アルプス」株)とは各個別の委託契約に基づくものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は三回と算定する。

(9) 番号21について

〈1〉 「百五銀行」株は、六月一一日に発注されたその余の銘柄とは異なる同月一二日に発注されており、また、右両日の株価変動状況からしても、一二日の相場状況をみて同日買い注文がなされたものと推認される。よって、他の銘柄とは別個の委託契約によるものと算定するのが相当である。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(10) 番号30について

〈1〉 「いすず」株はまず九月二九日に発注されて五〇〇〇株が成約しているところ、同じ番号30の「注文伝票総括表」に記載された「日産自動車」株は、同月三〇日に発注、同日一〇時三六分に指値変更がされた後に成約している。これらは日を異にし、別個の委託契約によるものと推認される。但し、同月三〇日一〇時三六分に発注され、同時三九分に指値変更がされた「いすず」株は右「日産自動車」株と同一の委託契約によるものと解される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(11) 番号31について

〈1〉 「長谷川工務店」株は一〇月一九日に、「日産自動車」株は同月二一日一四時に、「日本ハム」株は同月二一日九時五三分に成行で、同月二三日に指値一六七〇円で、それぞれ発注され、取引が成立している。これらはいずれも時日を異にし、別個の委託契約によるものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は四回を算定する。

(12) 番号32について

〈1〉 これも時日を異にする二回の取引であり、「日本ハム」株の株価変動状況からみても、右が「百五銀行」株と同じ一一月五日に注文がなされたものとするのは不自然であって、発注日である同月七日に、別個の委託契約により発注されたものと解される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(13) 番号35について

〈1〉 「NTT」株は一一月二六日に発注されており、同月二四日に発注された「日本ハム」株とは異なる日になされた注文であり、株価変動状況をみても、同月二四日の「NTT」株の株価からみると、明らかに低い指値で売り注文を出しており、同月二六日の株価変動をみて注文がなされたものと解される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(14) 番号36について

〈1〉 「丸大食品」株は一二月一〇日に発注されているところ、「ニチコン」株は同月一一日に発注されており、別個の委託契約によるものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

(15) 番号38について

〈1〉 「日本ゼオン」株のみ、他銘柄とは異なる日に成行で発注されており、別個の委託契約によるものと推認される。

〈2〉 よって売買の回数は二回と算定する。

以上に算定したところを合計すると、原告の昭和六二年中の株式売買等の回数は五九回となり、野村証券委託分を合わせると六一回となる。

よって年間五〇回を超え、課税対象となるものである。

3  右認定とおり、「注文伝票」はその性格、作成目的、記載内容、形式、作成方法に鑑みれば、顧客(原告)からの注文の都度作成して、その注文回数を正確に反映しているものと認められる反面、証拠(乙二九六ないし二九八、乙三〇五、証人村松清志、同鈴木鋭雄、同安居義恭、原告本人)によれば、「注文伝票総括表」は、本来顧客の注文を受ける度に注文の総てを記載しなければならないのに、後日まとめて作成され、場合によっては一か月分以上をまとめて注文伝票を基に作成されることもあったこと、担当者らの理解不足等から注文伝票の成約を基に、成約分のみをまとめて記載する形で、作成されたものがあること、原告の要求により昭和六二年分の「注文伝票総括表」数枚が再発行されたことがあるが、その再発行分は当初作成された「注文伝票総括表」の控えと異なる枚数、記載内容であったことなどが認められ、右のような作成経緯、記載の不正確さからすれば、本件の「注文伝票総括表」が委託契約の回数を正確に証するものと評価することはできない。

また、原告は、ナショナル証券における株式売買に関して、値段に幅を持たせた計らい注文で有効期間は設けない等、担当者の裁量に任せた取引を行っていたものであり、そのような幅を持たせた委託契約が時日を置いて数度に分けて実行された場合は、取引が複数回にわたって実行されていても委託契約は一個である旨主張し、これに副うかのように、乙二九六ないし二九八の供述記載分中並びに証人村松清志、同鈴木鋭雄、同安居義恭の供述及び原告本人の供述中には、原告の注文は、銘柄、数量、値段を指定するが、値段に常識的な程度の幅を持たせ、担当者が発注の時期を決定することとしたものであった等と述べる部分がある。しかしながら、右2で認定した事実に照らせば、右供述はたやすく信用できないものである。したがって原告の右主張は採用できない。

4  なお、被告は本件審理中に係争年中の株式売買の回数の主張を一部変更する等しているが、右は本件更正処分等における課税所得額等の主張に何ら変更を及ぼすものではない。課税処分取消訴訟における訴訟物(審理の対象)は、課税処分によって確定された税額が課税実体法によって客観的に定まる税額を超えているかどうかであって、結論としての課税が処分時に客観的に存在した税額を上回らなければ当該処分は適法とされるものである。したがって、課税庁が当該課税処分の税額を維持するため、訴訟において従前と異なる税額の算定方法を主張することも許されるところであるから、本件における被告の主張の変更も当然許されるものである。

5  以上のとおりであるから、原告の昭和六一年分及び昭和六二年分の株式等の売買による所得も課税所得となるものとした被告の各年分の更正処分及び過少申告加算税賦課決定はいずれも相当であり、原告の請求は理由がない。

四  よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大津卓也 裁判官 新堀亮一 裁判官 池町知佐子)

別表一

昭和六〇年分

〈省略〉

別表二

昭和六一年分

〈省略〉

別表三

昭和六二年分

〈省略〉

別表四(1)昭和60年分

〈省略〉

別表四(2)昭和60年分

〈省略〉

別表四(3)昭和60年分

〈省略〉

別表五(1)昭和61年分

〈省略〉

別表五(2)昭和61年分

〈省略〉

別表五(3)昭和61年分

〈省略〉

別表六(1)昭和62年分

〈省略〉

別表六(2)昭和62年分

〈省略〉

別表七(1)昭和60年分

銘柄別株価変動一覧表(日本証券新聞抜粋)

〈省略〉

別表七(2)昭和60年分

銘柄別株価変動一覧表(日本証券新聞抜粋)

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別表八(1)昭和61年分

銘柄別株価変動一覧表(日本証券新聞抜粋)

〈省略〉

別表八(2)昭和61年分

銘柄別株価変動一覧表(日本証券新聞抜粋)

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別表九 昭和62年分

銘柄別株価変動一覧表(日本証券新聞抜粋)

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